TOP > 醸す|醸し人九平次が日本酒に求めるもの

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よく聞かれる質問に 「どんな日本酒をつくりたいですか?」 というのがあります。

どんな日本酒をつくりたいのか。
実はこれを表現するのはなかなか難しいことで、いつも頭を悩ませてしまいます。
それは相手や状況に応じて表現が変わってくるためでしょう。

「どんな香りがするのか」「どんな味わいがあるのか」「余韻はどうなのか」「舌触りは」
こういった表現がもっとも一般的で分かりやすく、共通の認識を生みやすいものです。
だからこそお酒の楽しみを広げ、人とのつながりを広げてくれるのです。

私は造り手ですから、もう少し具体的に、別の表現も可能です。
アルコール度数は、酸の数値、種類は、香りの成分は、といったことがそうでしょう。
こういった数字的表現はお酒を楽しむ時には、まったくもって必要ありませんし、かえって野暮というものでしょう。

しかし蔵の仲間たちとの疎通、目標の日本酒への指針として当然重要なものではあります。

このように様々な表現方法があり、時に饒舌に語られるのがお酒です。
しかし私が目指す日本酒は、もう少し違うところにあります。
当然ながら香りや、味わい、成分というのは重要なことです。
しかしその一方で、どうでもいいとも思っているのです。

なぜなら多くの場合、人の心を動かすのはそういった表面的なことではないからです。

人はお酒を口にしたき、心震え、衝き動かされることがあります。
どういったものがそれを成しえるのか?

私は、そんな考えから3つのことを日本酒に求めるようになりました。

蒸米を堀りだす様子

  

麹づくり

  

火入れの様子

  

蒸米のアップ

  

1. 美意識 その日本酒は五感を刺激するか

美しい蔵の中の様子

美意識といっても、難しいことを言いたいわけではありません。
美しい田んぼからとれた、美しいお米を、美しい環境で醸造したい。
シンプルに、そういうことだと思っていただいて構いません。

しかし美しさの認識というのは難しいことです。 
私たちは「味」や「香り」や「色」や「音」が “ある” と認識していますが、
実際それらが存在しているわけではありません。

世界自体に色があるわけではありません。 あるのは電磁波だけです。 
色は、人間の目を通して見るから色となるのです。
つまり、それぞれ個別に、脳が幻影を作り出しているのに過ぎません。

ですから同じものを見ても、人それぞれ違うものを見ています。
これはすべての感覚に言えるでしょう。

しかし、これは悲しむべきことではありません。
そのズレや錯覚こそに、各個人の意識が宿るのです。

あらゆる細胞、感覚器で世界を感じ取り、消化し、日本酒に反映させる。
そうすれば、自ずと日本酒にも美が宿ります。

2. 本質  その日本酒はエレガントであるか

エレガントな麹

本質。世界の底に流れる真理。そんなイメージでしょうか。

造り手として、日本酒の本質を知りたいというのは、当然の欲求でもあります。
日本酒とは果たして何なのか?
それを追う作業は意外と楽しいものです。

本質に迫れば迫るほど、あることに気づきます。
日本酒の中で起きていることは、私の中でも起きており、
この世界で起きていることが、日本酒の中でも起きています。

宇宙全体に流れる真理。深遠なアイデア。そんなことを意識させられます。
そしてそういった真理こそが、エレガントと呼ばれるのではないでしょうか。

エレガントなものには、分野や境界、皮膚や瓶を飛び越えて覆い尽くす、強力な力があります。
エレガントな日本酒もきっとそうでしょう。
誰が飲んだって、どこに出したって、エレガントなものはエレガントなのです。

そして、そうなるためには本質へ迫ること意外はあり得ません。

3. 先見性  その日本酒は将来も愛されているか

広がる日本酒のシチュエーション

今、最高のものをつくる。 それは当然の使命です。

自然に左右されるものでもありますから、人間の努力では及ばないところが多分にあります。
米の品種の差で、違った特徴も立ち表れます。
及ばずながらも毎年、毎年の米から、それぞれ最高の個性を引き出すようにしています。

米の特徴や個性がきっちり表現された日本酒は素晴らしいものです。
しかし、それだけでは大きな感動は生まれません。

それは、その中に未来を予見する要素がないからでしょう。
出会ったことのない初めての感覚、さらなる進化の可能性といった要素です。

歴史が進み、更なる多様化が進む中、日本酒のシチュエーションも可能性も無限に広がります。
そんな将来のマーケットで輝き、楽しまれる日本酒。
その要素を垣間見れたとき、人は無意識のうちに心ざわつき、興奮するのだと思います。

先見性、それは今現在のお客様のためでありますが、将来の日本酒ファンを喜ばせるためでもあります。